山葵よ寿司よ、平和なれ
〜GOBBIシリーズ VOL.7〜
「――ねえ、何背負ってるの、それ」
K.J.WAINWRIGHTは、レーベルメイトであるE.GOBBIが背中に背負っているものに
視線を向けながら、彼女本人に尋ねた。――某日、A-BEAT-Cのスタジオにて。
「あっ、KIKI! ちょうどいいわ、はい、これあなたの分」
そう言って、GOBBIは背中に背負っていたものから1枚、WAINWRIGHTに手渡した。
――彼女が背負っていたものは、よく行進デモ等に使われる、プラカードであった。
「いや、だから、あなたの分、って言われても」
とりあえず受け取ってみたものの、具体的な使用案が思い浮かばなかった。
「何言ってるのよ、今、人生の分かれ道じゃないの!!」
GOBBIの表情は、至って真剣そのもの。
「人生の分かれ道、って……何がよ?」
「えっ……もしかしてKIKI、まだ誰からも聞いてないの!?」
WAINWRIGHTは、無言でうんうん、と数回頷いた。
「大変なのよ、今! ここ(A-BEAT-C)が、乗っ取られそうなのよ!!
だから、反対運動を起こすの!」
「え……ええ!? 乗っ取り!?」
普段GOBBIの話には冷静に対処してきたWAINWRIGHTであったが、あまりの
スケールの大きな話に、流石に目を丸くして驚いてしまった。
「ちょっ……具体的に、どういうことなの? いきさつは?」
GOBBIは、周囲をキョロキョロを見渡すと、少し小声になって、話し始めた。
「――DAVEの再婚が、ファンの間で少しずつ、話題になり出してるはのは、知ってる?」
「小耳には挟んだわ。――ファンの間ではDENISEとの仲が噂されてたみたいだけど、
実際にはフランチェスカさん――ああもう、紛らわしいわね――と結婚済みで、既に子供もいる。
そこまで情報がもう流れてるのよね? でも、それが……?」
「フェデリコは――きっと、ショックだったでしょうね」
確かに、前妻であるDOMINOこと、A.GATTIとの間に生まれたフェデリコからしたら、
多少なりはショックであった可能性は高い。――GOBBIは、ため息混じりに言葉を続けた。
「だって、義理とは言え、兄弟が出来たら――お小遣いの取り分が減るかもしれないもの」
――お小遣い?
「そこから骨肉の争いが始まるのね。A-BEAT-Cを2分割しての。泣く泣く私のKIKIは別の陣営へ
……さよならKIKI。でも私、あなたのこと忘れないわ!」
GOBBIは、一方的にWAINWRIGHTの手を取り、ガッチリと握手を交わした。
――WAINWRIGHTが、軽くため息をつく。
「ELENA、話が違ってきてない? A-BEAT-Cの乗っ取りじゃなくなってるわよ、今の話」
WAINWRIGHTとしては、本当はお小遣いからそんな抗争に発展するわけないじゃない、
と付け加えたかったが、面倒なのでそれは控えておいた。
「乗っ取り……そう、KIKI、大変なのよ今! A-BEAT-Cが乗っ取られそうなの!」
ふりだしに戻ってしまった。
「――さっき聞いたわよ。で、詳細は? DAVEの再婚が本当に関係してるわけ?」
「Akyr
Musicを作ったローレンが、DELTAに曲を提供したのは、知ってる?」
「ああ、話なら聞いたことあるけど。――最初Akyr用の名義でリストにあったのが、
急にDELTA名義に変わったのよね。まだ収録とかはされてないみたいだけど」
「そう。つまりそれって、ローレンはまたSEBに自分の楽曲を収録して欲しかったのよ。
でも自分はAkyrだから無理。そこで思いついたのが、A-BEAT-C乗っ取りなのよ!」
「――無茶苦茶な」
「まず、ローレンは極秘裏にDOMINOに連絡を取ったの」
「極秘裏なのに、ELENAにはばれてるじゃないの」
冷静に可笑しな箇所にツッコミを入れるWAINWRIGHT。だかGOBBIは話を続けた。
「ローレンはDOMINOにこう言ったわ。――「奥さん、歯ブラシ買ってくれませんか」って」
いつの時代の何処の話だ。
「そしたらね、DOMINOはこう言ったの。――「馬鹿にしないで、私はもう奥さんじゃないのよ!」って」
「――怒る箇所、そこなんだ」
逆に変に関心してしまうWAINWRIGHT。
「第一、今の話だと乗っ取り失敗に終わってるじゃないの」
「何言ってるのよKIKI、知らないの!? Akyrには、MARCANTONIOがいるのよ!?」
「知ってるわよ、そのくらい」
「彼、日本のお寿司が大好きなんですって! きっとSUSHI
QUEENが新たな刺客として、
寿司を持ってくるに違いないわ!」
「――それのどのあたりが危険なの? お寿司持ってくるだけでしょ?」
「持ち込まれた寿司の中に1つだけ、山葵が10倍のが混じってるのよ!!
それを食べた人から退場……ああ、もう駄目だわ!」
GOBBIは、勝手にハズレを食べたシーンを想像して、うなだれた。
「――まとめると、全然乗っ取りの危機じゃないような気がするんだけど」
「そんなことないわよ、明日にでも――あ、NEO!」
GOBBIは、たまたま横を通ったレーベルメイトを呼び止めた。
「大変なのよ今、A-BEAT-Cが乗っ取りの危機なの!」
「な、な、な、な、なんだってえぇぇぇぇ!? い、一大事じゃないか!!
非常食、非常食を用意しないと!!」
また何か、勘違いをし出す若者が1人いた。その様子を、ただWAINWRIGHTは
呆然と眺めているだけだったが――
「お早う、KIKI。――あの2人、何してるの? 何だかプラカードみたいなのに
『寿司はさび抜きで!』って書いてるけど」
たまたま横を通りかかったF.CONTINIが、不思議そうな表情でWAINWRIGHTに尋ねてきた。
WAINWRIGHTは、軽くため息をつくと、CONTINIに返事をする。
「――要約すると、A-BEAT-Cは今日も平和ってことよ」
------------(フィクションです)------------
KIKI
&
GOBBIの7作目。
この作品から、GOBBIさんの項垂れガックリと、乗っ取りネタが定着しています(笑)。
何気にNEOも初登場(笑)。
今後の彼の活躍にも期待したいところ……かな?